ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(U.S.M.H)は今、マルエツ、カスミ、マックスバリュ関東に加え、いなげやの統合を完了し、「新生 U.S.M.H」として首都圏の小売業界における一大勢力へと変貌を遂げようとしています。
この変革期における同社の中長期計画と、直近の厳しい業績動向から見えてくる課題、そしてそれを乗り越えるための具体的な戦略を、詳細情報をもとに徹底的に解説します。
1. 全体の枠組み:長期志向と「スーパーマーケットを超える」挑戦
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出典:筆者作成(画像生成によるイメージ)
U.S.M.Hの戦略の根本には、「今後10年の成長に向けた“融合”のステージ」があり、これを実現するために3年ごとの中期経営計画をサイクルとしています。
そして、その目標は単なるスーパーマーケット(SM)の枠組みを超えた「Beyond Supermarket(スーパーマーケットを超える事業構造)」の確立にあります。これは、SM事業を核としつつ、テクノロジーの活用、新領域への進出、そしてサステナビリティを事業活動の中心に据えることで、企業価値最大化と社会的責任を両立させようという強い意思の表れです。
第3次中期経営計画(2023~2025年度)の目標
現在の第3次中期計画は、まさにこの「Beyond Supermarket」の実現に向けた基盤固めの期間と位置づけられています。
- 売上高約 7,500 億円既存3社ベースでの目標
- 営業利益約 220 億円中間年度ベースで進捗を注視
- 投資額年間平均で約 250 億円設備投資、IT、物流強化などを含む
第3次中期計画では、持続的な成長を実現するため、以下の3つの「成長エンジン」を定義し、事業変革を推し進めています。
📌 3本の成長エンジン
店舗収益拡大(商品+店舗変革)
- 商品改革: 差別化商品の開発、PB(プライベートブランド)の強化(特にイオングループの「トップバリュ」の拡大)、棚割りの最適化。
- 店舗改革: 店舗フォーマットの刷新、デジタル技術(DX)を活用した店内施策、OMO(Online Merges with Offline)の導入。
- → 店舗そのものの収益力向上を目指す。
アウトサイドデジタル(店舗外収益拡大)
- OMOの拡大: 店舗ネットワークと調達力を活かし、オンラインチャネルからの収益創出を強化。
- 具体的なチャネル: 宅配サービス(例:「らくらくクマさん宅配便」)、ネットスーパー、外販チャネル、各種デジタルサービス
- → 店舗外の収益源を構築し、ラストワンマイルのニーズに対応。
ビジネス領域拡大(新領域・知財活用)
- 新事業モデルの模索: 既存のスーパーマーケット事業以外のビジネスチャンスを探る。
- 知的資産の活用: 保有するデータや技術などの知的資産を用いた新サービスの創出、他業種との協業。
- → スーパーマーケットの枠を超えた収益の柱を創る挑戦。
📌 実行を支える「変革領域」
これらの戦略を確実に実行するため、財務・資本効率、労働生産性、DX推進、組織・人財改革、そしてサステナビリティ戦略など、多岐にわたる内部プロセスと資源の強化に取り組んでいます。全社を挙げた200人以上が参画する体制で、変革の実行を加速させています。
3. 「新生 U.S.M.H」の誕生:統合による大規模構造変革
第3次計画の推進と並行して、U.S.M.Hは2024年以降、マルエツ、カスミ、マックスバリュ関東に加え、いなげやを統合し、「新生 U.S.M.H」としての本格的な変革フェーズに突入しています。
統合・再編の意義:徹底した規模の経済の追求
経営統合の主目的は、これまで各社で重複していた機能をU.S.M.H本体に集約・統合し、規模メリット(スケールメリット)を徹底的に追求することです。
- 商品仕入:各社の仕入部門を本体に統合し、共通調達体制を構築。特に加工食品・日配分野で交渉力を強化し、コスト削減を図る。
- バックオフィス:人事、総務、経理、IT、法務などを集約し、コストを最適化。約500人の人員を営業部門へシフトし、人員の最適化も計画。
- IT・物流・店舗開発:機能統合により情報共有・更新速度を高め、共同物流体制の構築やDXを推進し、業務効率とコスト削減を目指す。
- OMO・ラストワンマイル:ネットスーパーや宅配サービスの構築を事業会社枠を超えて統合的に取り組み、競争力を高める。
この統合による収益改善規模は、3年でおおよそ 100 億円規模を目標としており、既存の「ホールディングス+各事業会社」体制から、本部集中型への組織形態そのものの刷新がテーマとなっています。
将来の数値見通し(統合後)
統合効果を見据えた将来展望として、営業収益は2026年度には 1 兆円超(1 兆 300 億円)を目指し、2027年度には 1 兆 1,800 億円、営業利益 215 億円という目標が報じられています。首都圏における市場シェアを約 10%に近づけるという構想も示されています。
4. 最新の業績分析:規模拡大の裏側にある「利益の壁」
しかし、この大規模な変革の最中に、U.S.M.Hは厳しい現実にも直面しています。直近の連結業績には「規模の拡大」と「収益性の悪化」という二つの大きな流れが見られます。
📌 業績概況:「増収減益」が示す構造的課題



2025年2月期の営業収益(売上高)は、いなげやの統合効果により大きく増加しました。しかし、営業利益は前期比で 13.4%減となり、営業利益率はわずか0.74%と低水準にとどまっています。
最新の四半期でも営業収益は順調に拡大しているものの、営業利益率は0.8%程度と極めて低く、「売上拡大と利益率改善のギャップ」が最大の経営課題です。
📌 2026年第二四半期結果

2026年2月期の営業収益の実績
- 第1四半期:2,343億円(前年同期比 +33.4%)
- 第2四半期累計:4,779億円(前年同期比 +33.4%)
通期予想:9,798億円(前年比 +20.8%)
👉 第1Q・第2Qともに前年同期比30%超の増収。
👉 通期予想に対しても、2Q終了時点で進捗48.8%とほぼ想定通りです。
2026年2月期の営業利益の実績

- 第1Q:7.5億円
- 第2Q累計:38.5億円
- 第3Q累計目安:82.5億円(通期予想を単純按分)
- 通期予想:110.0億円
物価上昇を吸収
価格転嫁を抑えたため、粗利率が低下。
固定費の増加
人件費・電気代・物流費が大幅に上昇。
競争激化
価格訴求やPB強化で売上は増えても利益率は伸びず。
子会社の差
マルエツ・いなげやは好調だが、カスミの減益が足を引っ張った。
👉 つまり、「増収=増益」にならず、コストと価格政策が利益を圧迫しているのが現状です。
📌 利益を圧迫する深刻な要因
利益を減少させた主な原因は、コストプッシュインフレの直撃と競争激化による価格政策です。
販管費(固定費)の増加:電気料金、労務費(人件費)、物流費といった販売費及び一般管理費が大幅に増加。
コスト増の価格転嫁不足:マクロな物価上昇の中で、顧客の節約志向や競合への対抗策として、加工食品を中心に「価格据え置き施策」を継続。
結果、売上総利益率が低下し、コスト増を吸収できず。
つまり、売上は伸びているが「利益を生み出す構造改革」が、コスト上昇のスピードに追いついていない状況です。マルエツといなげやが堅調な一方、マックスバリュ関東の収益改善や、統合によるシナジー効果の早期発現が急務となっています。
5. 今後の鍵:規模を利益に変える「シナジー効果」の徹底追求
U.S.M.Hはいなげや統合により、「首都圏最大規模」という強大な土台を築きました。今後の評価は、この「規模」をいかに「利益」に変換できるかにかかっています。
会社は2026年2月期に営業利益110億円(前期比84.0%増)という大幅な回復を予想しており、この目標達成の鍵となるのが、統合による徹底した「シナジー効果」の実行です。
📌 収益力改善に向けた注目領域
- 共同調達とPB強化によるコスト削減:4社一体での大量仕入れによる原価低減を徹底。PBである「トップバリュ」の取扱容量を前年から50%以上増加させるなど、トップバリュ戦略の拡大を加速。
- 物流・配送インフラの抜本的再構築:共同配送体制の構築、物流DX/自動化技術の導入により、業務効率とコスト削減を目指す。物流タスクチームを統合し、次期物流構想を検討。
- OMO/デジタルチャネル融合の加速:既存店舗とオンラインチャネルの融合(OMO)を拡大し、来店促進型と非来店型チャネル双方からの収益を図る。デジタル投資の成果を、店舗の作業効率向上と販管費抑制に直結させる。
総合評価
U.S.M.Hは、今まさに「成長フェーズにあるが、利益体質への変革が急務」という過渡期にあります。コスト高と低利益率という厳しい逆風の中、いなげや統合で得た「規模」を「収益力」に変える大規模構造改革の実行力が、今後数年間の U.S.M.H の運命を左右することになるでしょう。
「新生 U.S.M.H」が、スーパーマーケット業界の枠を超えた新しい流通モデルを確立できるか、その挑戦から目が離せません。



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