ミニストップ:再成長への挑戦――「選択と集中」が生んだ構造改革の確かな成果
コンビニエンスストア業界で独自の「ファストフード併設型」という地位を築くミニストップ株式会社(9946)は、過去5年間にわたり大規模な「選択と集中」を伴う事業構造改革を断行してきました。この改革は、2023年を初年度とする中期経営計画(2023年〜2025年)で本格化し、持続的な成長軌道への回帰を目指すロードマップとなっています。
最新の2026年2月期第2四半期(中間期)連結業績では、この構造改革の成果が明確に現れ、2期ぶりの経常・最終黒字転換を達成しました。本稿では、ミニストップが辿ってきた変革の道のり、現在進行中の中長期戦略の全体像、そして最新の業績動向について詳細に分析します。
1. 過去の業績変遷と事業構造改革の背景
ミニストップの過去5年間は、業績の低迷と、海外事業からの「選択と集中」という劇的な変革の時期でした。



業績を揺るがした二つの波と「負の遺産」の整理
注:2023年2月期以降は「収益認識に関する会計基準」適用後の数値。
- コロナ禍と国内事業の低迷: 2021年2月期には、コロナ禍の影響で営業損失が△55億32百万円と最大に悪化しました。コンビニの差別化要因であった店内加工ファストフードの販売落ち込みが大きな要因です。
- 海外事業からの撤退と集中: 経営資源の効率化とリスク管理のため、中国・フィリピン事業から撤退し、韓国ミニストップの全株式を譲渡しました。
- この韓国事業売却により、2023年2月期は約238億円の売却益を計上し、最終利益は128億34百万円の黒字となりました。資源は国内とベトナム事業に集中されました。
- 2025年2月期の最終損失: 構造改革を加速させる中で、回収可能性の検討による減損損失44億96百万円を計上した結果、最終的な当期純損失は△67億74百万円となりました。これは、抜本的な体質改善に向けた「負の遺産」の整理であったと言えます。
2. ミニストップの中長期戦略:構造改革と成長戦略の融合
ミニストップの中期経営計画(2023年~2025年)は、赤字体質の改善と差別化された店舗モデルの強化を二本柱とし、最終年度の2025年度にはROE 5.6%の達成などを目標としています。
重点施策と戦略的意図
- 店舗モデル & 差別化「ニューコンボストアモデル」の確立・進化コンビニ機能とファストフード機能の融合を深め、他チェーンとの差別化を強化。成功モデルを既存店に水平展開し、既存店活性化を図る。
- 構造改革・経営管理強化経営指導改革、マネジメント体制改革「事業利益」を重視する発想への転換。本部と加盟店が一体となり、効率的な経営指導体制を確立。
- 商品・MD戦略高付加価値商品強化、イオングループ連携店内加工ファストフードで「おいしさ」と「健康」といった新たな価値軸を付加。「トップバリュ」を活用し、コスト競争力と商品力の強化を両立。
- デジタル & OMO新事業の「機能化」とOMOの実現デリバリー、EC、MINISTOP POCKET(職域事業)を成長させ、ミニストップアプリをインターフェースとしてリアル店舗と融合。新たな買い物体験とロイヤルカスタマー創出を目指す。
- 海外展開ベトナム事業の強化・黒字化直営多店舗化事業として出店を加速し、300店舗規模を目指す。MD政策の再設計と収益性向上モデルを確立。
3. 最新業績:構造改革の成果と今後の見通し (2026年2月期 中間期)
最新の2026年2月期中間期連結業績は、これらの「断行」された構造改革が、確かな成果として現れたことを示しています。

営業総収入(2026年2月期中間期)
2期ぶり黒字転換の達成
中間期の業績
2026年2月期は、営業収益(営業総収入)が 前年同期比+9.5%(上期) と大きく伸びました
前期(2025年2月期)が減収・赤字基調であったのに対し、2026年は明確に増収トレンドへ転じています。
-
ファストフード商品の好調
「北海道ミルクソフト」へのリニューアルや「完熟白桃パフェ」、人気スナックとのコラボホットスナックが売上を押し上げ。

-
既存店日販・粗利率改善
既存店売上は前年同期比100.6%、粗利率は+0.7pt改善(31.4%) -
新事業の拡大
職域向け「MINISTOP POCKET」拠点数が前年比120%以上、EC売上は400%以上と急拡大。

-
海外(ベトナム)事業の再成長
商品政策強化や組織改革で収益改善。

課題とリスク
-
消費期限表示不正の影響
2025年8月以降、おにぎり・弁当・惣菜を一時販売中止。売上機会の損失とブランド毀損は依然としてリスク要因。

-
客数減少傾向
既存店客数は前年同期比98.8%と微減。客単価上昇で補っているが、持続性が課題。 -
物価高による消費二極化
節約志向と高付加価値需要への対応のバランスが引き続き求められる。
今後の見通し
通期計画では営業収益 970億円(+10.9%) を見込んでおり、Q2時点で進捗率50%を達成。

-
下期もファストフードの季節商品(ソフト・パフェ・ホットスナック)で収益を維持できるかがカギ。
-
EC・職域事業の成長がどこまで加速するかが、中長期的な収益拡大のポイント。
ミニストップ 2026年2月期 営業利益
こちらが ミニストップ 2026年2月期 営業利益の進捗グラフ です

-
Q1実績:0百万円
-
Q2累計実績:1,116百万円
-
Q3累計目安:1,158百万円(通期予想12億円に対する単純按分)
-
通期予想:1,200百万円
👉 営業利益はすでにQ2時点で通期予想の大半(93%)を達成していることが見て取れます。
分析 — 改革の確かな手応え
この黒字転換は、以下の要因により国内事業の収益性が大幅に改善したことが最大の要因です。
- 国内事業の回復: 国内事業の営業利益は13億75百万円の黒字を達成しました(前年同期は1億66百万円の損失)。
- 店舗収益性の向上:
- 既存店売上高は前年同期比100.6%増。特に差別化戦略の核である店内加工ファストフードの日販は105.8%増と奏功しています。
- 売上総利益率は前年同期比0.7%増の31.4%に改善。
- 加盟店1店当たりの利益も前年同期比110%超伸長。
- 新事業の急成長: 職域事業「MINISTOP POCKET」の拠点数は前年同期比120%超拡大し、事業利益は前年同期比200%超を創出。OMO戦略の土台が収益を生み始めています。
- 海外事業の損失幅縮小: ベトナム事業の営業損失は2億59百万円と、前年同期の6億32百万円から損失幅が大幅に縮小しました。
- 特別損失を吸収しての黒字確保: 手づくりおにぎり等の不正行為に伴う特別損失7億83百万円を計上したにもかかわらず、最終黒字を確保。これは、本業の利益改善が本物であることを裏付けています。
今後の戦略と課題
ミニストップは、「ニューコンボストアモデル」という独自の強みを磨き、デジタルとリアルを融合させることで、持続的な成長に向けた確固たる基盤を築きつつあります。
- 不正対応と信頼回復: おにぎり等の販売再開を安全性を最優先に進め、一連の不正行為による影響を最小限に抑え、顧客からの信頼回復に努めることが喫緊の課題です。
- 構造改革の完遂: 購入頻度の高い食事商品の改革、アプリを活用したプロモーション、効率的な店舗運営の仕組みづくりを徹底し、経営効率の改善を継続します。
- ベトナム事業の黒字化: 損失幅は縮小しましたが、ベトナム事業の早期黒字化と目標とする300店舗規模への出店加速は、グローバル戦略上の重要課題です。
中間期の黒字転換は、ミニストップが長年続けてきた「選択と集中」の努力が報われ始めた証と言えるでしょう。この勢いを維持し、構造改革の最終年である2025年度の目標達成に向けて、さらなる成長戦略を加速できるかどうかに注目が集まります。


コメント