なぜ小売各社はポイントカードやアプリ、クレジットカードを必死に推すのか?

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1. 導入

スーパーやコンビニで「ポイントカードはお持ちですか?」と聞かれるのは日常の光景。
ただ、消費者の中には「作りたくない」「持ち歩きたくない」と答える人も少なくありません。
一方、小売企業はポイントカードやアプリ、さらには自社クレジットカードや決済機能まで拡張し、必死に普及を進めています。

この“温度差”の背景には、消費者の心理と企業の戦略のギャップがあります。

2. 消費者心理:「作りたくない派」の理由

消費者がカードやアプリを作らない理由にはいくつかの典型があります。

  • 個人情報を渡したくない心理
     登録時に住所や電話番号を入力することへの不安は根強い。特に高齢層では「個人情報がどこまで使われるか分からない」という懸念が強い。

  • 面倒くさい・管理が大変
     財布の中にカードが増えるのを嫌う人、スマホのアプリを増やしたくない人は多い。操作に慣れていない人ほど「余計な手間」と感じる。

  • お得感が薄い
     ポイント還元率が0.5〜1%程度では、登録の手間に対して得られるメリットが小さいと判断されやすい。

  • 縛られたくない心理
     「この店に行かなければ損」という仕組みを嫌い、自由に買い物したい人も一定数存在する。

  • デジタル移行の壁
     アプリ化が進んでも「設定が面倒」「使い方が分からない」という声は残る。特にシニア層ではアプリ導入が心理的なハードルになる。

👉 要するに、消費者は「即効性のあるメリット」や「シンプルさ」がないと行動に移さないのです。

3. 小売の狙い:「必死に推す」理由

では、なぜ企業はそこまで力を入れるのでしょうか。

  • 顧客データの収集
     イオンはiAEONに決済・ポイント・店舗情報を統合し、AIを活用した需要予測や販促最適化を進めています。
     セブン&アイは7iDという共通IDでグループ横断の顧客基盤を構築し、購買データと金融データを連携。リテールメディアや広告配信にも活用しています。

  • 囲い込み効果
     「ポイントを貯めたいからまたこの店に行こう」という動機を作り、リピート率を高めます。

  • 販促ツールとしての機能
     「ポイント倍デー」「会員限定セール」など、購買行動を直接刺激できる。セブン&アイは7iD基盤を活かして、即時にクーポン配信やタイムセールを行う体制を整えています。

  • アプリ連動によるDX推進
     チラシ閲覧、クーポン、ネットスーパー、電子決済を一つに統合し、来店前後の行動をすべて自社アプリで完結させる流れが進んでいます。
     イオンは2025年にiAEONレポートを開始し、「クーポンでどれだけ得したか」を自動で見える化。アプリの利用継続を促す仕組みです。


4. さらに進化:「クレジットカード戦略」

  • イオン
     イオンカード・WAON・AEON Payで経済圏を構築。金融事業は2024年度に営業収益5,332億円、営業利益614億円を計上。

    iAEON アプリ画面
    イオン「iAEON」アプリ画面。決済・ポイント・クーポンを統合
    出典:イオン株式会社 プレスリリース

  • セブン&アイ
     電子マネーnanacoは累計8,000万件。セブンカード会員は355万人、金融サービス売上は534億円。

    セブン-イレブンアプリ画面
    セブン-イレブン公式アプリ。残高やクーポン利用を一元管理
    出典:セブン&アイ・ホールディングス プレスリリース

  • ライフ
     アプリ会員120万人超、LC JCBカード会員50万人。中規模でも囲い込みを重視。

5. 他社アプリ・DX投資の広がり

  • ベルク:アプリ・決済強化を進め「スマホ1つでレジ完結」を目指す。

  • バロー:QRコード・電子マネーを導入。

  • 業務スーパー:キャッシュレス導入で利便性を高める。

スーパーが外部サービスではなく自社アプリを導入する背景には、次の2つの狙いがあります。

  • 外部QR決済の手数料削減
     食品スーパーは利益率が1〜2%と低いため、決済手数料の数%は大きな負担です。PayPayや楽天ペイなど外部決済に依存すると、売上が伸びても手数料で利益が削られてしまいます。自社決済ならこのコストを削減でき、浮いた分をポイントや値引きに回せます。

  • 顧客データの自社保有と活用
     外部決済を使われると「誰が」「何を買ったか」という一次データは外部事業者に残ります。自社アプリで決済を完結させれば、購買履歴・来店頻度・クーポン利用までを一気通貫で把握できます。こうして蓄積したデータはAI需要予測や広告配信(リテールメディア)にも活用され、新たな収益源になります。

👉 つまり、自社アプリは「コスト削減」と「データ収益化」という両輪で、小売にとって大きな戦略投資なのです。

6. 今後の展望

  • カードからアプリへ、OMO統合へシフト
     物理カードは徐々にフェードアウトし、アプリ+決済一体型が主流となる流れは確実です。さらに、アプリを軸にオンラインとオフラインを融合させる OMO戦略 の導入が加速するでしょう。

  • 共通IDと横断データ活用の深化
     グループ横断ID(例:7iD、イオンID)を活用し、購買履歴・決済データ・アプリ利用データを結びつけて「個別最適化」を深めるフェーズへ移行します。広告・販促・品揃え設計・来店予測などにAIを活用し、LTV最大化を狙う戦略です。

  • アプリを生活プラットフォームに
     決済機能を入り口に、生活に密着したサービスをアプリ内に拡張する動き。金融(ローンサービス、保険)、サブスクリプション、地域情報、会員優待サービスなどを統合し、「一つのアプリで日常を完結できる」体験を目指します【aeonfinancial.co.jp】。

  • バックオフィスDX・業務アプリ刷新による効率強化
     顧客向けだけでなく、社内業務の最適化も重要。イオングループでは30種以上の業務アプリを順次入れ替え、統合運用を目指す動きが報じられています【enterprisezine.jp】。

  • “アプリを作りたくない層”の取り込み
     UX設計が普及の鍵です。シンプル操作、少ない登録ステップ、ゲストモード、ログインなし購入など、使い手の負担を軽くする機能が競争力要素になります。

  • 事業ポートフォリオと戦略転換との連動
     スーパー事業だけでは成長が限定される中、グループ戦略の中で 「スーパーマーケット事業の再構築、非中核切り離し、資源集中」 といった動きが既に始まっています(例:セブン&アイのスーパーストア切り離し戦略【jbpress.ismedia.jp】)。


7. 図表:キャッシュレス決済の動向

時代の流れとしてアプリ決済、QRコード決済、カード決済は年々増加しており、ますます各社は自社アプリへの誘い込み、クレジットカード加入も推奨していくと予想されます

📈 キャッシュレス決済比率の推移



図1:日本のキャッシュレス決済比率の推移(2010〜2024年)
出典:経済産業省「キャッシュレス決済比率調査」

📊 2024年のキャッシュレス内訳

図2:2024年のキャッシュレス決済内訳(クレジット/デビット/電子マネー/コード決済)
出典:経済産業省「キャッシュレス決済比率調査」(2025年3月発表)

🟦 現金 vs キャッシュレスの構成比

図3:日本の決済比率(現金 vs キャッシュレス)
出典:経済産業省「キャッシュレス決済比率調査」(2025年3月発表)


まとめ

消費者にとっては「1%還元」の小さな特典に見えても、企業にとっては数千億円規模の収益基盤
現金派が減り、アプリ・カード・QR決済に移行する流れの中で、ポイントカードとアプリは単なる販促を超え、「未来の顧客基盤」へと進化しています。

📌 参考・出典リンク集

  • イオンフィナンシャルサービス「DX戦略」:aeonfinancial.co.jp

  • 経済産業省「キャッシュレス決済比率調査」(2025年3月発表):meti.go.jp

  • EnterpriseZine「イオングループが30業務アプリを刷新」:enterprisezine.jp

  • JBpress「セブン&アイ、スーパーストア事業切り離し戦略」:jbpress.ismedia.jp

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